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美しいキモノ夏号 「森口邦彦インタビュー」

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2019/05/20発売の美しいキモノ夏号にて貴重な作品を多数保有する、人間国宝・森口邦彦先生に作品への思いを語っていただきました。

きものに命を吹き込む

富澤輝実子(以下富澤) 先生のデザインはこれまでになかった斬新なもので、芸術性の高さが特徴と思います。作品をお作りになるとき、アイディアはどのように湧いてくるのですか?
森口邦彦(以下森口) そやね、私には芯のところに女性に対するピュアな憧れのようなものがありまして、その神秘性をもっと美しく高めてほしいという思いがエネルギーとなってデザインが生まれます。大学で日本画を学んだ後、20代でフランスに渡り、本気でグラフィックデザインの勉強をしました。当時のフランスではオプティカルアート(錯視的幾何学絵画表現)が注目される時期で、強く刺激を受けました。バルテュス(世界的巨匠)をはじめ多くの画家や文化人との知己も得ました。若者らしい進路への悩みもありましたが、バルテュスさんの「日本の友禅の道を途絶えさせてはいけない、それが君の責務だ」というアドバイスに従って、帰国後父の工房に入りました。
富澤 お父様と作風は異なりますね。
森口 父と同じにはできませんでしたね。父は写実の筆力が優れているばかりでなく絵が自由闊達で技量が並外れているのです。ですから、工房で父の後をそのまま継ぐということは到底不可能でした。ですが父は「あんたの好きなものやりなはれ」と励ましてくれました。それで、自分の頭の中にあるものをコンパスや定規を使ってデザインに起こし始めたのです。幾何学模様を作ったのですが、それまでにない模様ですからきものになるのか不安もありました。人まねは嫌ですからたった一人で新たな創作の道を歩かせてもらいました。創造の世界が楽しい、作ることが楽しいと感じながら進みましたね。

着る価値のあるきものを作りたい

富澤 お父様は、きものを一枚のキャンバスに見立てて描くだけでなく、「着たときの姿が大切」とおっしゃっていらしたそうですね。
森口 そこが本質ですね。着るものを作っているわけですから、衣桁に掛けてどんなに図案が良かったとしても、着てみたらあまり良くないというのでは意味がありません。私もそこには注意していて、平面で書き起こしたデザインを必ず筒に巻いて、着たときに模様がどう見えるかを確認しています。
富澤 蒔き糊の力を感じるときはありますか?
森口 グラフィックなデザインをきものにする場合、図案に立体感がないとつまらないものになります。立体感を出すために蒔き糊は偉大な力をもたらしてくれます。ですから、線で構成するデザインだけでなく蒔き糊の質や形にも細心の注意を払います。父が用いていたころのものと現在私が使っているものとは、蒔き糊の質はだいぶ違います。糊をただ蒔いているわけではなく、緻密なバランスを考えながらあるべきところに蒔かれているように、ピンセットを使って細かく調整するのです。

作品への思い

富澤 一作ごとに作品への思いは異なりますか?
森口 もちろん一作一作に心を込めますが、何パーセントかは叶えられても思いのすべてが叶えられることはありません。その思いを次作に持ち越します。きものに新しい命を吹き込みたい気持ちが強くありますね。日本には新たなデザインをきものとして完成に導くための高度な手仕事の力が健在ですし、個人の芸術表現を発揮できる分野でもありますから、次の未知なる可能性に挑戦するクリエーティブな後進を育てたい気持ちもあります。いつか見た模様をまねるのではなく、そこから新しいものを作り出してほしい。50年先も100年先もきものがきものとして生き生きとしているために必要です。
富澤 着る方へのメッセージをいただけますか?
森口 作り手は今を生きる女性の着姿を思い描きながら作りますから、ただ単にノスタルジックにきものを着るのではなく、現代にふさわしい着る価値のあるきものを着てほしいと思います。きものは芸術をまとう衣服です。ビジュアルにきれいなことは必要ですが、このきものが好き、あるいは着たいという心情が着姿に現れます。ご自分がより高まる良い作品と巡り会って自信をもって着ていただきたいですね。

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