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着物ブログ

着物の未来/きもの産業の回顧と失敗/民族衣装は国の誇りを語る象徴 /「やがては着物が着られなくなるのではないか」という不安/着物の未来を安定させる努力

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目次目次

文:富澤輝実子

着物の未来

今日は「着物の未来」についてお話しいたします。
私は着物の取材・編集に携わって40年以上たつのですが、自分が着物大好きということもあってか、お目にかかる方は皆様「着物好きで着物を着て幸福感を得ている方々」だったような気がします。その上、着物愛好家同士のお話しは熱く深く濃いものですから、世の中の変化に気づくのが遅れたのかもしれません。
この7年ほど取材し続けている「各国大使夫人と民族衣装」テーマのページがあるのですが、そのテーマは駐日各国大使夫人にお手持ちの母国の民族衣装をお召しいただき、衣装の特徴をはじめ、どのようなときにどのように着用されているかのTPOと、伝統工芸の継承の実情などをご紹介いただき、その後、日本の民族衣装・着物をお召しいただいて着心地などの感想をお聞きする内容です。お目にかかる大使夫人はどなたも「着物は日本を象徴する素晴らしい衣装です」とか、「美しくてエレガントでゴージャス!」「日本に来たら着物を着るのが夢でした」などと着物への賛辞をいただくものですから、互いに心地よく「着物はなんと素晴らしい衣装なのだろう、未来永劫日本の誇りだわ」などと気分は高揚し満足していたのです。

きもの産業の回顧と失敗

ところが、先日『Kyo Wave(キョーウエーヴ)』2020 spring号の特集「きものの未来-平成きもの産業の回顧と失敗」(企画・取材・文/松井敦史)という記事を読み、少なからず衝撃を受け、また大変お勉強になりましたのでご紹介いたします。この本は信用調査会社の「株式会社信用交換所京都本社」の出版物で、数字に裏付けられた分析情報が提供されている業界誌です。上記巻頭特集記事は「失われた30年」という序章から始まっていて、少し長いのですが、ここに引用させていただきます。

「令和元年秋、きもの業界は実需商戦を迎えた。だが、その内容は例年の如くといかなかった。きもの小売業者の行う消費者向け展示会は客が集まらず高額品が売れず大苦戦の様相小売商向けの流通問屋の売り出しも集客はままならず、ロットはまとまらず苦戦した。製造問屋の売り出しも同じような状況だった」

とあります。この苦戦について業界では「消費増税の影響だ」と表面的な分析を行い、深い苦しみから顔をそむけたのです。しかし平成時代30年を通して市場苦戦から抜け出すことはできなかったのが現実でした。
記事の続きは、

「バブルピークに2兆円といわれた市場は、バブル崩壊後、長いトンネルに入り込んだ。いくらショッピングセンターにチェーン店が増えても、雑居ビルに着付け教室が増えても、きもの姿で街歩きが増えても、きもの市場全体の売り上げは減り続け、平成末期(には)2681億円(2018年度呉服小売市場規模推計、矢野経済研究所)にまで落ち込んだ」

とともに和装産地の落ち込みはより大きく、

「国内最大の和装産地である丹後(京都府)の白生地生産数量は平成元年315万反から、同30年28万反へと91%減に至ったが、未だその落ち込みは止まらない。京友禅生産数量は平成元年392万反から同30年38万反へこちらも91%減だ。平成時代、日本経済は失われた30年といわれるが、きもの業界はまさしく失われた30年であった」

とあります。

民族衣装は国の誇りを語る象徴

それでは平成時代のきもの業界はへこむ一方だったかというとそうではなく、「催事販売」で一時的に大きな業績を上げていたところもあったのです。私も若い頃、問屋さん主導と思われる販売会の様子を聞き覚えています。一泊二日で素敵な宿に顧客を招待し、早めの夜にごちそうを振る舞い、多くの販売担当は歌やひょうきんな話術でもてなして高額商品を販売するという時代だったようです。お客様の声を聞いたこともありますが、おおむね、「どっちみち必要なきものを買うのだから、楽しく気持ちよく買いたいのよね。これだけ楽しませてもらうのだから、もてなし代がきものの料金に入っているのは承知の上よ」などと笑顔で答えて下さる方と、「こういうところ(高級料亭や高級旅館など)を自分で予約するのは面倒なのね、招待されてお買い物できるのは好都合なの、オホホ」などという声もあって、当時は「私もリッチ・マダムだったらちやほやされながら、おいしいごちそういただいてお買い物したいな。ちょっとくらい高くても構わないわ」などと、遠い世界のことだとばかりに憧れに似た気持ちを抱いたものでした。
その後、きもの業界には忘れられない出来事が起こったのです。それは高額商品を支払限度を超えてクレジット販売する商法の悪質性が問題となり、華々しかった最大業者が倒産。社会問題となったのです。その後も似たような販売手法を取る業者は繰り返し現れては破綻の道をたどっていたと聞きます。今、販売手法の問題点のみを記しましたが、きもの業界が直面しているのはそれだけでなく、生産者側には別の大問題・後継者難が差し迫っているのです。さらに消費者の高齢化は抜き差しならないところまで来ています。
ここで、大使夫人の民族衣装のところに戻ります。今まで取材した26か国のなかで日本のように日常に民族衣装を着ている国はほとんどありませんでした。日常生活ではなく、結婚式やお祭り、宗教儀式など特別な日の衣装としてかろうじて残っているようでした。国の制度として「民族衣装の日」を決めて、「この日は民族衣装を着ましょう」というキャンペーンをしたり、「月曜日には公務員は民族衣装を着ること」などという決まりを作っている国もありました。民族衣装は国の誇りを語る象徴と位置付けて大切に守ろうとしているのですね

「やがては着物が着られなくなるのではないか」という不安

現在まだ、私達着物愛好家はTPOに合わせて、好きな時に好きな着物を着てお出掛けできますので、「ひょっとして着物を着られなくなる日が来るかもしれない」などという危機感は薄いと思います。ですが、世界の民族衣装の現在を知ると「やがては好きな着物が着られなくなるのではないか」という不安がよぎります。それは、以下の理由によるものなのです。再度、『Kyo Wave』記事「きものの未来」から深刻な報告を紹介いたします。
「生産現場の技術者の中心世代は団塊世代、平均年齢は70歳前後」であり、後継者育成がままならず、数年後に訪れるであろう「団塊世代の引退ラッシュとともに生産インフラの大きな毀損に至る可能性」を指摘しています。着物はほぼすべてが産地ブランドです。結城紬、大島紬、西陣御召、久留米絣、京友禅、加賀友禅、東京友禅などみな産地名の付いた染織で、それぞれに特徴がことなります。愛好者は色柄も大切ですが、各産地が守り続ける地風や特徴にひかれて愛好しています。今何とかしないとその産地が消滅の危機にあると、この記事は教えてくれているのです。

着物の未来を安定させる努力

ここでようやく私はドキッとしました。今まで他人事と思おうとして、あるいは気づかないふりをして目を伏せていた自分がいたからです。それではこの危機をどのようにしたら乗り越えられるかのヒントが示されていましたので紹介してみます。

「ネット通販の成功に見る顧客との信頼関係、外国人観光客から始まったレンタル着物への期待、SNSを活用しての生産者と顧客との人間関係構築、そしてリアル顧客につなげる」など、「令和時代、きもの業界が持ち直すには新たな歯車をつくり、新たな消費者を増やすしかない。きものの未来のためには、一人でも多くのきものファンを、一人でも多くのきもの消費者を増やすしかない」と結ばれています。

なんと深い考察でしょう。しかも分かりやすく、産地にも業者にも消費者にも目配りのされた力強い文章で読みごたえがありました。日本から着物がなくなったらと思うとゾッとしてしまいます。私達着物愛好家もそれぞれ身近な一人を着物好きに導き、着物の未来を安定させる努力が必要な時期に来たのかもしれません。

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